自力で生き抜くための本物の「知」鍛錬法
書店でふと手にとった本が大切な一冊なるという経験は何にも代え難く素晴らしいものである。
今回取り上げる「知の体力/永田和宏」もその一つである。
「当たり前だけど忘れていたこと」を思い出させてくれる一冊だ。
この記事の構成は以下の通り。
本の情報
「答えは必ずある」などと思ってはいけない。"勉強"で染み付いた呪縛を解くことが、「知の体力」に目覚める第一歩になる。「質問からすべて始まる」「孤独になる時間を持て」「自分で自分を評価しない」「言葉にできないことの大切さとは」ー。細胞生物学者にして日本を代表する歌人でもある著者が、これから学ぶ人、一生学び続けたい人たちにやさしく語りかける。自力で生き抜くための本物の「知」鍛錬法。
ジャンル:新書
ページ数:223
本書の目次を見る*1
著者の情報
1947年滋賀県生まれ。細胞生物学者。京都大学名誉教授、京都産業大学タンパク質動態研究所所長、歌人としても活躍。『生命の内と外』『近代秀歌』など著書多数。
知の体力を読んで考える
著者が本書で終始訴えかけているのは「大学は最後の教育機関である」とうことだ。
しかし、大学生以外にも読んで欲しいと思うには理由がある。
そのために、本書で記されている最後の教育期間としての大学で大学生が成すべきことをまず共有しておく。
「大学を高校から切りはなす」
本書はこの章から始まるが、これに尽きる。
「大学を高校から切りはなす」とはどういうことか。
・教わるのではない、学ぶのだ。
・正解は必ず一つとは限らない。むしろ存在しないこともある。
・問いがあって答えがないという状態に耐えうる知の体力を身につけよ。
大学生はこれらのことに立ち向かっていかなければならない。
しかし、これは大学生に限ることだろうか。
大人でもこれらのことに立ち向かってこなかった人もいるかもしれない。
それが顕著に現れていると私が感じるのは、SNSで不確定情報が真実かのように広まりすぎている状況である。
不確定情報を信じてしまう心理状況はどのようなものか。
・知らない、わからないという状態が耐えられない。
・必ず誰かが答えを知っている。
この二つが挙げられるだろう。
一つ目の「知らない、わからないという状態が耐えられない。」というのはまさに、知の体力がないということだろう。
二つ目の「必ず誰かが答えを知っている。」というのは、受験教育から脱却できていないとうことだろう。受験勉強ならば、扱う問題には必ず答えは存在し教科書と先生は絶対なのである。
SNSで不確定情報が真実かのように広まりすぎている状況の原因にはこれらが関係している考えられる。
もちろん他にもたくさん原因があるだろうが。
受験教育が悪いわけではないと思う。受験教育から脱却できていないことが問題なのだ。
さて、そのことに一石を投じているのが本書「知の体力」なのである。
学ぶとはどう言うことか
本書ではこのように述べている。
どこがわからなくて何ができないかをはっきりさせるために、どこまでわかっていて何ができるかを勉強する。
確かにそうだな。。当たり前だと思っていたけれど自覚が足りていなかった痛感している。
文字で目にするとやはり心への残り方が違います。
是非、本で読んでいただきたい。
そして、もう一つ。
言葉をいかに扱うか。
「ヤバイ」や「エモい」という言葉が若者言葉として定着し始めている。
言葉とは常に変遷するものであるから、悪くは無いのだろう。
しかし、それらの多くを内包する言葉で気持ちや感情を描写することによって、気持ちや感情がより抽象的になってしまうのではないか。
そも、「言葉にできない。」という言葉があるように言葉は離散的なものなのだ。
言葉=「私」にはどうしてもならない。
我々は新たな価値観として変遷する言葉を受け入れるとともに、言葉で「私」に迫る努力を怠ってはいけないのだと強く痛感した。
言葉では「私」をあらわしきれない。という当たり前のことを改めて思い出させてもらった。
こちらの記事では、「知の体力」を含み私が触れたものから考えていることを綴っている。
是非ご一読いただきたい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
まひる🌱
*1:I部 知の体力とは何か
1 答えがないことを前提とせよ
大学を高校から切りはなす/ 正解は一つなのか/ 答えのない問題/ 定石では太刀打
ちできない/どのように自分で考えられるか
2 質問からすべては始まる
私が大爆発するとき/ プレゼンの心構え/ 以心伝心の功罪/ 能動的に聞く/ 先生
だって嘘を言う/ ヒトの全細胞数は60兆個ではなかった/ 授業に教科書はいらない
3 想定外を乗り切る「知の体力」を
過剰なプレスリリース/ 何のために勉強するのか/ 学習から学問へ/ 最後の教育機
関としての大学/ 想定外に向き合う知力/ 「わかっていないこと」を教えたい
4 なぜ読書は必要なのか
ちっぽけな私は実は凄い奴なのだ/ 「何も知らない〈私〉」を知ること/ 〈他者〉の
発見/ 生命は自然に生まれる?/ 科学的な思考法の基本/ パスツールの「白鳥の首
フラスコ」
5 活用されてこその知である
しまい込まれた知識/ コラーゲンを飲む/ アウトプットへの訓練/ 知のスペクトル
6 〈私〉は世界とつながっている
永田流、短期派遣システム/ 英語嫌い/ 無用のへりくだり/ 学んでから始めるか、
始めつつ学ぶか/ ここだけが世界ではない
II部 師弟関係はどう結ぶものなのか
1 落ちこぼれ体験も大切だ
大学の教師が親切になった/ 三十苦に遭う
2 多様性にこそ価値がある
アクティブラーニング/ 教室じゅうを歩き回る/ とにかく聞いていく/ 「いい先生
ばかり」の胡散臭さ
3 先生にあこがれる
岡潔の残したエピソード/ 研究への情熱が学生に感染する/ 「パチンコ必勝法を教え
たるで」/ 授業は商品か/ 「何を教えるか」よりも「誰が教えるか」/ 先生で志
望する大学を択べるか/ 名著の値段
4 大学に質を求めるな
大学の品質保証/ 企業・社会の求める人材とは?/ 総理の言う「職業教育」/ 「ら
しく」の蔓延/ 「らしく」は同調を強要するミームだ/ 違っているということから
5 親が子の自立を妨げる
大学から親を駆逐しよう/ 卒業式で親も卒業/ 子でなく親の問題/ 繰り返される失
敗のなかにこそ
6 価値観の違いを大切に
「ヤバイ」だけではヤバクない?/ 特殊な悲しみ/ 予測変換機能 / ヘンな三人組
7 自分で自分を評価しない
妬みのなかの敵意/ シンデレラの起こした変化/ 「私などとてもとても」/ 自分を
位置づけない/ ぼっち席/ 本来ひとりでいるもの
III部 思考の足場をどう作るか
1 二足のわらじには意味がある
身の縮んだ人生/ 研究室の御法度/ 元気をなくしたわが子
2 みんなが右を向いていたら、一度は左を向いてみる
負のフィードバック制御 / われわれは弱い / 「それらしい」言葉の嘘くささ /
言葉は究極のデジタル / コミュニケーションは、アナログのデジタル化
3 メールで十分と思うな
300通のラブレター/ メールは思いを伝えるか/ 言葉にできない/ 待つという時
間 / 思考の断片化
4 ひたすら聞きつづける
受ける側の覚悟 / 妻が望んでいたこと/ 河合隼雄の極意/ 聞いてくれる存在 /
「それは無理」が摘み取るもの
5 「輝いている自分」に出会うには
特別の〈他者〉/ 伴侶となるべき存在
あとがき