まひるの部屋

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楽しいことを語りたい

この時期にドラマは何を与えてくれるのか -「不要不急の銀河」を見て-

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先日、NHKにて『ドラマ&ドキュメント「不要不急の銀河」』が放送された。

番組の内容は次のようなもの。

又吉直樹さんオリジナル脚本。“新たなドラマ”が生まれるまでの人間模様を追ったドキュメントと、その結果誕生するホームドラマとの二部構成によるTVショー。 

 

これが非常に面白かった。

現在は再放送も決まっておらず見ることはできないが、NHKのサイトを見るだけでも十分に価値があるだろう。

『今 ドラマを作ることはできるのか?』

実験的に作られた本番組をみて、『今 ドラマは何を与えてくれるか』を考えた。

 

ドラマのあらすじは次のようなもの。

自粛の“延長”が叫ばれた5月上旬。スナック“銀河”を営む家族が岐路に立たされる。父と母はスナックを続けるかやめるかで揉め、高校生の息子は彼女と近づきたい思いにかられ…。

 

舞台は2020年5月。緊急事態宣言発令下の東京のスナックとその家族だ。

コロナ禍にコロナ禍のドラマを作っている、それだけですごい。

それも、ホームドラマだ。最も三密になる設定にあえて挑む制作陣の気概には感服した。

そして、このドラマのタイトルにもあるとおり、「不要不急」がテーマになっている。

「不要不急」ってなんだろう。

 

さて、コロナ禍は我々が共通して体感している。

よく考えてみるとこのようなことは滅多に無い。

それも、日本のみならず世界の共通認識としてコロナ禍による自粛生活を経験している。

この共通認識はこれからのエンタメに大きな影響を与えるだろうと思っている。

 

緊急事態宣言が発令されて活気のなくなった東京。ありありと映し出されるわけではなかったが、画面の端々から感じた。

 

スナックは休業要請により閉めている。そのどうしようもないもどかしさだとか、いつまで休業すれば良いかわからない不安だとか。

少し苛立ちが募るスナックを運営する夫婦。

何気ない食卓が今までに無いほど幸せに見えた。

決して幸せな雰囲気が漂っているわけではないのだが。

 

当たり前が幸せに感じる。そんなことを今、皆が共通して実感しているだろう。

それを心から感じるドラマだった。

しかし、見せつけてくるわけでは無い。

登場する家族はどこかイライラが溜まっていたり、思春期の男の子がちょっとバカになっていたり、あまり事態が飲み込めていない小さな女の子がいたり。

ただただ日常なのだ。

 

そんな中、夫がスナックを開店させようとする。

しかし、店先には近隣住民による強迫とも取れる休業要請の張り紙があったこともあり、開店には反対の妻。

もはや店を開けることができない雰囲気。

この同調圧力も上手く描き出し、ものすごく共感できる。

 

この口論の中、夫がカラオケをセットし歌を歌い出す。

 

ファイト!/中島みゆき

 

最初は止めようとする妻だが、次第に一緒に歌い出す。

半ばヤケクソだろう。

 

ただそれだけ。

ただそれなんだけれども、何故こんなに胸に残るのか。

 

 

それはきっと、この番組の構成もあるだろう。

冒頭のに述べたとおり、この番組はドラマ本編とその製作過程ドキュメンタリーの二部構成だ。

 

まず、製作ドキュメンタリーから放送される。

ドラマの撮影現場は三密で、コロナ禍で撮影するには最も難しい撮影の一つだ。

その壁を取り払うべく、専門家監修のもと撮影の段取りを決めていく。

ウィズコロナの働き方にもがく現場の人々。

 

その制作会議の中、こんな言葉が出た。

 

「この時期、ドラマみたいですか?」

 

私も考えた。

『この時期、ドラマ見たいだろうか。』

結論は

『見たい。』

 

この時期私はたくさんのドラマや映画などのエンタメに助けてもらった。

では、どう助けられたのか。

 

今の時期、他では体感できない人との関わり合いや感情、体験をもらっている。

ここではないどこかの世界をもらってるんですよね。

それによって助けられている。

他にも、共感できるというだけで心が救われたり、笑えたりする。

そう言う意味で、この時期ドラマを見たい。

 

特に今回のドラマは共感をくれた。

それが胸に残っている理由だ。

 

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さて、ドラマ制作段階で実際のスナックに取材をしていた。

そのスナックも最近営業を再開したばかり。

そこで言われていたのが

「昨日もお客さんが来てくれて カラオケ歌って もう涙が出ちゃいました。」

「カラオケってすごいんですよね 不思議な 

歌ってすごいっていうか いきなり その人の生身を見ちゃうって感じ」

 

また、出演者のリリー・フランキーが行きつけのスナックの訪れてこのような話をしていた。

 

(スナックのよさは)たくさん いろんな人とお話しできること」

「(コンビニより数の多いスナック。そのことをもう一度考えると、スナックは)不要不急では無いんですよ 決して」

スナックで話すことが生きる目的の人もいる。

人はしきり や画面越しでも、人と話したいと思う。

一人では生きていけない。

 

スナックって不要不急なのだろうか。

私たちの人生って不要不急なのだろうか。

不要不急は本当に「不要不急」なのだろうか。

 

この番組は自粛へのアンチテーゼでは全くない、

不要不急」を自問自答していく番組だと感じた。

 

家族。スナック。歌。その全てに「人」が関わっている。

課題に立ち向かい、「人間ドラマ」を描くのもまた人である。

 

我々はドラマをはじめとするエンターテインメントに人を求めているのだ。

この時期にその温かさが増しているように思う。

 

とても良い番組でした。

 

 

最後まで読んでくださってありがとうございました。

まひる🌱